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المؤلف: 夏目漱石

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先生は嬉しそうな私の顔を見て、「もう論文は片付いたんですか、結構ですね」といった。私は「お蔭でようやく済みました。もう何にもする事
はありません」といった。
実際その時の私は、自分のなすべきすべての仕事がすでに結了して、これから先は威張って遊んでいても構わないような晴やかな心持でいた。私
は書き上げた自分の論文に対して充分の自信と満足をもっていた。私は先生の前で、しきりにその内容を喋々した。先生はいつもの調子で、「な
るほど」とか、「そうですか」とかいってくれたが、それ以上の批評は少しも加えなかった。私は物足りないというよりも、聊か拍子抜けの気味
であった。それでもその日私の気力は、因循らしく見える先生の態度に逆襲を試みるほどに生々していた。私は青く蘇生ろうとする大きな自然の
中に、先生を誘い出そうとした。
「先生どこかへ散歩しましょう。外へ出ると大変好い心持です」
「どこへ」
私はどこでも構わなかった。ただ先生を伴れて郊外へ出たかった。
一時間の後、先生と私は目的どおり市を離れて、村とも町とも区別の付かない静かな所を宛もなく歩いた。私はかなめの垣から若い柔らかい葉を
挘ぎ取って芝笛を鳴らした。ある鹿児島人を友達にもって、その人の真似をしつつ自然に習い覚えた私は、この芝笛というものを
鳴らす事が上手であった。私が得意にそれを吹きつづけると、先生は知らん顔をしてよそを向いて歩いた。
やがて若葉に鎖ざされたように蓊欝した小高い一構えの下に細い路が開けた。門の柱に打ち付けた標札に何々園とあるので、その個人の邸宅でな
い事がすぐ知れた。先生はだらだら上りになっている入口を眺めて、「はいってみようか」といった。私はすぐ「植木屋ですね」と答えた。
植込の中を一うねりして奥へ上ると左側に家があった。明け放った障子の内はがらんとして人の影も見えなかった。ただ軒先に据えた大きな鉢の
中に飼ってある金魚が動いていた。
「静かだね。断わらずにはいっても構わないだろうか」
「構わないでしょう」
二人はまた奥の方へ進んだ。しかしそこにも人影は見えなかった。躑躅が燃えるように咲き乱れていた。先生はそのうちで樺色の丈の高いのを指
して、「これは霧島でしょう」といった。

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