كتاب · こころ
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المؤلف: 夏目漱石
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しかしこの自分を育て上げたと同じような匂いの中で、私はまた突然結婚問題を叔父から鼻の先へ突き付けられました。叔父のいう所は、去年の
勧誘を再び繰り返したのみです。理由も去年と同じでした。ただこの前勧められた時には、何らの目的物がなかったのに、今度はちゃんと肝心の
当人を捕まえていたので、私はなお困らせられたのです。その当人というのは叔父の娘すなわち私の従妹に当る女でした。その女を貰ってくれれ
ば、お互いのために便宜である、父も存生中そんな事を話していた、と叔父がいうのです。私もそうすれば便宜だとは思いました。父が叔父にそ
ういう風な話をしたというのもあり得べき事と考えました。しかしそれは私が叔父にいわれて、始めて気が付いたので、いわれない前から、覚っ
ていた事柄ではないのです。だから私は驚きました。驚いたけれども、叔父の希望に無理のないところも、それがためによく解りました。私は迂
闊なのでしょうか。あるいはそうなのかも知れませんが、おそらくその従妹に無頓着であったのが、おもな源因になっているのでしょう。私は小
供のうちから市にいる叔父の家へ始終遊びに行きました。ただ行くばかりでなく、よくそこに泊りました。そうしてこの従妹とはその時分から親
しかったのです。あなたもご承知でしょう、兄妹の間に恋の成立した例のないのを。私はこの公認された事実を勝手に布衍しているかも知れない
が、始終接触して親しくなり過ぎた男女の間には、恋に必要な刺戟の起る清新な感じが失われてしまうように考えています。香をかぎ得るのは、
香を焚き出した瞬間に限るごとく、酒を味わうのは、酒を飲み始めた刹那にあるごとく、恋の衝動にもこういう際どい一点が、時間の上に存在し
ているとしか思われないのです。一度平気でそこを通り抜けたら、馴れれば馴れるほど、親しみが増すだけで、恋の神経はだんだん麻痺して来る
だけです。私はどう考え直しても、この従妹を妻にする気にはなれませんでした。
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