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पृष्ठ 116 / 185

लेखक: 夏目漱石

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「私はその友達の名をここにKと呼んでおきます。私はこのKと小供の時からの仲好でした。小供の時からといえば断らないでも解っているでし
ょう、二人には同郷の縁故があったのです。Kは真宗の坊さんの子でした。もっとも長男ではありません、次男でした。それである医者の所へ養
子にやられたのです。私の生れた地方は大変本願寺派の勢力の強い所でしたから、真宗の坊さんは他のものに比べると、物質的に割が好かったよ
うです。一例を挙げると、もし坊さんに女の子があって、その女の子が年頃になったとすると、檀家のものが相談して、どこか適当な所へ嫁にや
ってくれます。無論費用は坊さんの懐から出るのではありません。そんな訳で真宗寺は大抵有福でした。
Kの生れた家も相応に暮らしていたのです。しかし次男を東京へ修業に出すほどの余力があったかどうか知りません。また修業に出られる便宜が
あるので、養子の相談が纏まったものかどうか、そこも私には分りません。とにかくKは医者の家へ養子に行ったのです。それは私たちがまだ中
学にいる時の事でした。私は教場で先生が名簿を呼ぶ時に、Kの姓が急に変っていたので驚いたのを今でも記憶しています。
Kの養子先もかなりな財産家でした。Kはそこから学資を貰って東京へ出て来たのです。出て来たのは私といっしょでなかったけれども、東京へ
着いてからは、すぐ同じ下宿に入りました。その時分は一つ室によく二人も三人も机を並べて寝起きしたものです。Kと私も二人で同じ間にいま
した。山で生捕られた動物が、檻の中で抱き合いながら、外を睨めるようなものでしたろう。二人は東京と東京の人を畏れました。それでいて六
畳の間の中では、天下を睥睨するような事をいっていたのです。
しかし我々は真面目でした。我々は実際偉くなるつもりでいたのです。ことにKは強かったのです。寺に生れた彼は、常に精進という言葉を使い
ました。そうして彼の行為動作は悉くこの精進の一語で形容されるように、私には見えたのです。私は心のうちで常にKを畏敬していました。

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