पुस्तक · こころ
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लेखक: 夏目漱石
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我々は夜に入って家へ帰りました。その翌日は日曜でしたから、私は終日室の中に閉じ籠っていました。月曜になって、学校へ出ると、私は朝っ
ぱらそうそう級友の一人から調戯われました。いつ妻を迎えたのかといってわざとらしく聞かれるのです。それから私の細君は非常に美人だとい
って賞めるのです。私は三人連で日本橋へ出掛けたところを、その男にどこかで見られたものとみえます。
「私は宅へ帰って奥さんとお嬢さんにその話をしました。奥さんは笑いました。しかし定めて迷惑だろうといって私の顔を見ました。私はその時
腹のなかで、男はこんな風にして、女から気を引いて見られるのかと思いました。奥さんの眼は充分私にそう思わせるだけの意味をもっていたの
です。私はその時自分の考えている通りを直截に打ち明けてしまえば好かったかも知れません。しかし私にはもう狐疑という薩張りしない塊りが
こびり付いていました。私は打ち明けようとして、ひょいと留まりました。そうして話の角度を故意に少し外らしました。
私は肝心の自分というものを問題の中から引き抜いてしまいました。そうしてお嬢さんの結婚について、奥さんの意中を探ったのです。奥さんは
二、三そういう話のないでもないような事を、明らかに私に告げました。しかしまだ学校へ出ているくらいで年が若いから、こちらではさほど急
がないのだと説明しました。奥さんは口へは出さないけれども、お嬢さんの容色に大分重きを置いているらしく見えました。極めようと思えばい
つでも極められるんだからというような事さえ口外しました。それからお嬢さんより外に子供がないのも、容易に手離したがらない源因になって
いました。嫁にやるか、聟を取るか、それにさえ迷っているのではなかろうかと思われるところもありました。
話しているうちに、私は色々の知識を奥さんから得たような気がしました。しかしそれがために、私は機会を逸したと同様の結果に陥ってしまい
ました。私は自分について、ついに一言も口を開く事ができませんでした。私は好い加減なところで話を切り上げて、自分の室へ帰ろうとしまし
た。
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