Libro · こころ
Pagina 43 di 185
Autore: 夏目漱石
Tempo0:00
Velocita (WPM)0.0
Precisione100.0%
Premi inizia e digita le righe esattamente. · Backspace disattivato — continua anche dopo un errore.
小供はこう断って、躑躅の間を下の方へ駈け下りて行った。犬も尻尾を高く巻いて小供の後を追い掛けた。しばらくすると同じくらいの年格好の
小供が二、三人、これも斥候長の下りて行った方へ駈けていった。
先生の談話は、この犬と小供のために、結末まで進行する事ができなくなったので、私はついにその要領を得ないでしまった。先生の気にする財
産云々の掛念はその時の私には全くなかった。私の性質として、また私の境遇からいって、その時の私には、そんな利害の念に頭を悩ます余地が
なかったのである。考えるとこれは私がまだ世間に出ないためでもあり、また実際その場に臨まないためでもあったろうが、とにかく若い私には
なぜか金の問題が遠くの方に見えた。
先生の話のうちでただ一つ底まで聞きたかったのは、人間がいざという間際に、誰でも悪人になるという言葉の意味であった。単なる言葉として
は、これだけでも私に解らない事はなかった。しかし私はこの句についてもっと知りたかった。
犬と小供が去ったあと、広い若葉の園は再び故の静かさに帰った。そうして我々は沈黙に鎖ざされた人のようにしばらく動かずにいた。うるわし
い空の色がその時次第に光を失って来た。眼の前にある樹は大概楓であったが、その枝に滴るように吹いた軽い緑の若葉が、段々暗くなって行く
ように思われた。遠い往来を荷車を引いて行く響きがごろごろと聞こえた。私はそれを村の男が植木か何かを載せて縁日へでも出掛けるものと想
像した。先生はその音を聞くと、急に瞑想から呼息を吹き返した人のように立ち上がった。
「もう、そろそろ帰りましょう。大分日が永くなったようだが、やっぱりこう安閑としているうちには、いつの間にか暮れて行くんだね」
先生の背中には、さっき縁台の上に仰向きに寝た痕がいっぱい着いていた。私は両手でそれを払い落した。
「ありがとう。脂がこびり着いてやしませんか」
「綺麗に落ちました」
「この羽織はつい此間拵えたばかりなんだよ。だからむやみに汚して帰ると、妻に叱られるからね。有難う」
Premi inizia e digita le righe esattamente.
Non iniziato