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著者: 夏目漱石

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話が本筋をはずれると、分り悪くなりますからまたあとへ引き返しましょう。これでも私はこの長い手紙を書くのに、私と同じ地位に置かれた他
の人と比べたら、あるいは多少落ち付いていやしないかと思っているのです。世の中が眠ると聞こえだすあの電車の響ももう途絶えました。雨戸
の外にはいつの間にか憐れな虫の声が、露の秋をまた忍びやかに思い出させるような調子で微かに鳴いています。何も知らない妻は次の室で無邪
気にすやすや寝入っています。私が筆を執ると、一字一劃ができあがりつつペンの先で鳴っています。私はむしろ落ち付いた気分で紙に向ってい
るのです。不馴れのためにペンが横へ外れるかも知れませんが、頭が悩乱して筆がしどろに走るのではないように思います。
「とにかくたった一人取り残された私は、母のいい付け通り、この叔父を頼るより外に途はなかったのです。叔父はまた一切を引き受けて凡ての
世話をしてくれました。そうして私を私の希望する東京へ出られるように取り計らってくれました。

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