图书 · こころ
第33页 / 共185页
作者: 夏目漱石
时间0:00
速度 (WPM)0.0
准确率100.0%
按开始并准确输入每行文字。 · 退格键已禁用 — 即使输入错误也请继续。
私の兄はある職を帯びて遠い九州にいた。これは万一の事がある場合でなければ、容易に父母の顔を見る自由の利かない男であった。妹は他国へ
嫁いだ。これも急場の間に合うように、おいそれと呼び寄せられる女ではなかった。兄妹三人のうちで、一番便利なのはやはり書生をしている私
だけであった。その私が母のいい付け通り学校の課業を放り出して、休み前に帰って来たという事が、父には大きな満足であった。
「これしきの病気に学校を休ませては気の毒だ。お母さんがあまり仰山な手紙を書くものだからいけない」
父は口ではこういった。こういったばかりでなく、今まで敷いていた床を上げさせて、いつものような元気を示した。
「あんまり軽はずみをしてまた逆回すといけませんよ」
私のこの注意を父は愉快そうにしかし極めて軽く受けた。
「なに大丈夫、これでいつものように要心さえしていれば」
実際父は大丈夫らしかった。家の中を自由に往来して、息も切れなければ、眩暈も感じなかった。ただ顔色だけは普通の人よりも大変悪かったが
、これはまた今始まった症状でもないので、私たちは格別それを気に留めなかった。
私は先生に手紙を書いて恩借の礼を述べた。正月上京する時に持参するからそれまで待ってくれるようにと断わった。そうして父の病状の思った
ほど険悪でない事、この分なら当分安心な事、眩暈も嘔気も皆無な事などを書き連ねた。最後に先生の風邪についても一言の見舞を附け加えた。
私は先生の風邪を実際軽く見ていたので。
私はその手紙を出す時に決して先生の返事を予期していなかった。出した後で父や母と先生の噂などをしながら、遥かに先生の書斎を想像した。
「こんど東京へ行くときには椎茸でも持って行ってお上げ」
「ええ、しかし先生が干した椎茸なぞを食うかしら」
「旨くはないが、別に嫌いな人もないだろう」
私には椎茸と先生を結び付けて考えるのが変であった。
先生の返事が来た時、私はちょっと驚かされた。ことにその内容が特別の用件を含んでいなかった時、驚かされた。先生はただ親切ずくで、返事
を書いてくれたんだと私は思った。そう思うと、その簡単な一本の手紙が私には大層な喜びになった。もっともこれは私が先生から受け取った第
一の手紙には相違なかったが。
按开始并准确输入每行文字。
未开始